加賀百万石の味、治部煮(じぶに)

治部煮は、金沢生まれの私にとって故郷の味。とはいっても、7歳には九州に引っ越しちゃったので、わずかな期間でしたが、40年以上経った今でも曾祖母が作ってくれた治部煮の味は忘れていません。あの味、自分でも作れるようになりたいな。そう思っていた矢先、本業の仕事で金沢のロケが決まり、久しぶりに飛びました。

金沢の郷土料理・治部煮を習いに、料理教室の老舗へ

小松空港に到着するや否や、直行したのは金沢のクッキングスクール「青木クッキングスクール」です。青木クッキングスクールは創業60年になる料理教室の老舗で、2013年12月に公開された映画『武士の献立』で、料理の監修をされたスクールでもあります。この映画の中にも出てくるのが治部煮。この治部煮のみを1時間で教えてくれるレッスンがあると知って出向いたわけです。

到着すると、なんとラッキーなことにその日の受講生は私1人。通常は外国人の参加者なども多いそうですが、今日だけは先生と私のマンツーマンのレッスン。先生を独り占めできて、何でも質問できる好環境でした。

レッスンを受けた会場は、料理教室にふさわしく手元の調理風景が写し出される鏡が完備されていました。さすがに老舗なだけあって真新しさこそはなかったものの、どこもきちんと整理整頓されていて清潔感が漂っていました。


治部煮に入るすだれ麩をはじめ、加賀麩とよばれるお麩の食文化も盛ん!

材料は…鶏むね肉、すだれ麩、生麩、生椎茸、ほうれん草、花麩。見ての通り、すだれ、生、花と麩の種類が多いこと。これも金沢の特徴で、お麩の文化が大変栄えた街です。金沢には加賀麩というものがあり、とりわけ治部煮にはすだれ麩という金沢独自のお麩が入っています。これらのお麩は、金沢で江戸時代から続く加賀麩の名店、不室屋で購入することができます。下の写真は本店です。懐かしさもあって、わざわざ立ち寄り思わずシャッターを切りました。

話を元に戻し、治部煮に入れるすだれ麩の切り方にも特徴があり、以下の写真のように包丁で切り分けます。

青木クッキングスクールに悪いので作り方の詳細は割愛しますが、鍋に調味料や材料を入れて煮立ったら器に盛り、その後、水溶きの小麦粉でとろみを付けます。片栗粉ではなく、小麦粉というのがポイントですね。ちょっとしたコツも教わったので、これで再現できる! と確信したしだいです。

あとはこれらを器に盛るだけ。この器について、またまた興味深い話を先生から教わりました。

治部煮専用の漆器椀? 今は亡き金沢漆器の職人さんが作ったものとか


用意されてあった蓋付きのお椀は上の5客。さすがは漆器の産地。石川県には「木地の山中」「塗りの輪島」「蒔絵の金沢」と称される3つの漆器産地があり、いずれも全国的に有名です。同じお椀でもやたらと底の浅いものがあるなぁ〜と眺めていたら、どうやらそれが治部煮用のお椀なのだそうです。


蓋をあけると分かりやすいですね。蓋の内側の蒔絵も美しいこと。聞けば、いずれも金沢漆器なのだそう。全国的に名を馳せている山中や輪島に比べ、金沢漆器というと少々マイナーかもしれません。だから余計に「えぇ〜金沢漆器なんですか?」と驚きを隠せませんでした。ただし、この椀を作れる職人さんが今はもう金沢漆器にはいないらしく、この漆器を手に入れようと思ったら、骨董で見つけるしかないとのこと。ちょっと残念な気持ちになったのと同時に、いつか必ず欲しい! と思ったしだい。今後、骨董市に行ったら気をつけて見てみたいと思います。

治部煮に入れる具材の青菜は、ほうれん草でなくても芹、春菊や三つ葉、小松菜、金時草でも代用可。このほか、豆腐やたけのこ、里芋やさやえんどう、湯葉や百合根を入れてもいいそう。ちなみに、代々我が家の治部煮は肉は鶏ではなく鴨でしたし、青菜は芹だったような? 各家庭それぞれの特徴があるようです。


そして、これがうちで再現したもの。うっかりわさびを付け加えるのを忘れて撮った一枚です。白砂糖を使いたくなかったので、調味料は愛用している赤酒や鮎魚醤で対応しましたが、なかなかいい味に仕上がったので、12月の薬膳うちごはんのクッキングレッスンでご紹介。当日は「まるで金沢に来たみたい!」との声もいただき、ほっと胸をなでおろしたしだいです。

金沢には江戸時代から続く、食の老舗が目白押し。
立ち寄るところがいっぱい!

これを機に、ふるさとの味を自宅でも再現しようと、江戸時代から続く高木糀商店で麹や味噌を買ったり。

チビの時から大好きだったじろあめを購入しに、俵屋本店にも立ち寄りました。どちらも江戸時代から続く老舗。金沢は戦時中も空襲を受けていない街なので、風情のある建物が今も残っています。


俵屋のじろあめの原料は米と大麦のみ。独特な甘味は、麦芽の酵素が米のでんぷん質を糖化させたもの。人工甘味料、合成保存料などを一切使用していないので、安心安全。そのまま食べてもおいしいのですが、砂糖がわりに調味料として使ったりもしています。

これらをベースに金沢の味を自宅でも再現しようかと。最後に金沢料理の料理本も購入して、金沢を後にしました。

 

 

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